私の生徒のひとりに、60代の女性がいらっしゃいます。
(写真はイメージです)
もう数年、不定期ではありますが、私のところにレッスンに来ています。
小さいころにヴァイオリンをしていたのですが、大きくなるにつれて ほかのことが忙しくなり、遠ざかっていったそう。
2年くらい前には、ASTA-CAP(アメリカ弦楽器指導者協会 Certified Advancement Program)の レベル7 に合格するなど、常に前向きにヴァイオリンに取り組んでいます。レッスンのたびに、私の叱咤激励を浴びて、楽しむ気持ちも忘れずに、常に成長しています。
試験に合格する前には、ベリオのヴァイオリン協奏曲9番も勉強して、ヴァイオリンの技術に関して、知識と経験を広げました。
そして、数日前にレッスンにきたときには、ヴィオッティ 協奏曲23番1楽章 Paul Klengel によるカデンツを弾きました。
彼女はピアノも弾くので、夏になると、ヴァイオリン奏者として、もしくはピアノ奏者として、大人のための室内楽キャンプ なるものに毎年参加しています。
ここ数年は、ヴァイオリン奏者として そのプログラムに参加していたので、今年はピアノで参加するとのことで、ベートーベンのピアノトリオなどを勉強する予定だそうです。その準備もあり、ピアノのレッスンに忙しい と言っていたので、ヴァイオリンのレッスンにどれくらいの準備ができるのかしら?と私はあまり期待を抱かずにいました。
が、彼女のもとからでてきたのは、しっかりとした「音楽」で
私をとても驚かせてくれました。
カデンツァは演奏者の技術面をも充分に発揮できるように書かれてあることが多いため、彼女にとっては、とても難しいのですが、各セクションにおいて大切にしなければならないこと、全体の流れなどもとても明確で、音程は不安定なところがありましたが、メロディーとなる大切なところでは音程も安定していたため、聴いている人を不快にさせたり、聴いている人がたどっている音楽の流れを決して邪魔することなく、最後まですばらしく音楽を運んでくれました。
もちろん、まだまだ稚拙な部分はあるのですが、前回のレッスンで、セクションごとに練習方法を伝え、目標とするべきことを伝えたところ、それをしっかり理解し、こなしてくれて、今の段階では充分よくできている と私が太鼓判を押せるものでした。また、でてくるものがとても素直で率直で、私はその演奏に感動しました。彼女があの瞬間にだせるものすべてがしっかりでてきていました。
ふと、録音をしてあげればよかったかもしれない、とも思いましたが、この感動は、私のこころのなかにずっとずっと残るでしょう。
弾き終えた後に、私が拍手をしながら、とてもよかったですよ!と伝えると
「一生懸命、練習したの!」と話してくれました。
いくつか補足したいことがあるけれど、これは今日で終わりにしましょうね。と伝えると少しびっくりしたような顔をしていました。
もう何年も何年も前のこと。私自身もとにかく先生のおっしゃることを一生懸命すべてがんばって毎回レッスンに臨んでいたときのことを思い出しました。先生がとりあえずこの曲は終わりにしましょう とおっしゃっても 私は自分の演奏に納得がいかず、なんとなくイライラしていて、なんでもう次なのかしら?よく感じていました。ときには、先生が「とてもいいですよ」とおっしゃってくださっているのに「そんなことない!!」なんて先生に言ってしまったこともあり、どれだけ先生に失礼をしたか、先生のおこころを傷つけてしまったかも、と後から後悔したりもしました。(笑)
今は生徒である彼女の気持ちも、あのときの先生が考えてらしたことも、とてもよくわかります。
音楽の勉強は長い長い旅です。
1度勉強して、それで終わりということは決してありません。
同じ作曲家のほかの作品を勉強したり、他の作曲家の作品を勉強したり、協奏曲だけでなく、室内楽、オーケストラ、無伴奏、さまざまな形態の音楽を勉強するからこそみえてくるものがあるので、いろいろな作品にふれる必要があるのです。(また、文献に触れたり、他の演奏家の演奏を参考にすることも助けになります。)
だから、生徒のみなさんは、先生によかった と言っていただけたら、大いに喜んで、次のステップに進みましょう。
音楽の世界はとてつもなく広いのですから。
そして、彼女のように60代でも上手になっていっている人がいるということをどうぞ知ってくださいね。
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