ヴァイオリンにおけるビブラートはとても奥が深く、習得にはある程度の時間が必要ですし、それを洗練されたものにしていくには、より一層の努力が必要です。ビブラートはじめる前に、まずはビブラートという言葉の表記について、ビブラートを使う理由、ビブラートの種類、ビブラートをいつ理想のビブラートについて 一緒にちょこっと考えてみましょう。
ビブラート vs ヴィブラート
英語表記は vibrato となりますが、V の音は日本語にはないため、代わりに バ ビ ブ べ ボ があてられることが一般的です。固有名詞の場合のみ ヴ が使われる というカタカナ表記のルールもあるため、日本では violin は バイオリン、vibrato は ビブラート という表記が一般的に広く浸透しています。これらは固有名詞ではないですが、原語が v からはじまるため、ヴァイオリン、ヴィブラート という表記をすることも正しいと思いますし、原語の音に慣れている人にとってはそちらのほうが自然でしょう。
ヴァイオリンというカタカナ表記は楽器のなまえとして多くの方が目にしていると思いますので、そのままに。そして、ヴィブラート という言葉に関しては、ヴァイオリン(や その他の楽器や うた)を勉強してる方々中心に触れる言葉で、一般的な浸透度が低いかと思うので、今回はビブラートという表記でお話しを続けますね。
ちなみに 「ヴィブラートをかける」という英語の動詞は vibrate / バイブレート で、「振動する」「ゆれる」という意味ももっています。振動を意味する vibration / バイブレーション は日本語としてもよく使われますね。
ビブラートとは? なぜビブラートをかけるの?
ビブラートは小さく音程を変えることで、音に温かみや豊かさを加えます。ヴァイオリンにおける ビブラートは左手により行われますが、ヴァイオリンだけでなく、その他の弦楽器、管楽器、うた などでもビブラートを用います。
以前、こんな記事を書きました。よろしかったらどうぞ。:「ヴァイオリン奏者はなぜビブラートを使うの?」https://www.dearviolinstudents.com/ja/2019-12-19-042407/630/
ビブラートの練習はいつからはじめるの?
私がビブラートの導入をするのは、基本的には サードポジションをはじめて、シフト(ポジション移動)の動きが自然にできるようになってから です。これはシフトができるということは、多少の脱力もできるようになっていますし、腕からのビブラートとポジション移動(シフト)の動きに関連があること、そして、その頃になると、弓の動きも大分安定していますし、左手もある程度、自由に動かせますし、音程に関しての耳も少しずつでき、音を聴きながら弾くこともできるようになっているからです。
ただ、生徒によっては、とくに 子供の生徒に多いのですが、「先生、それなあに?」とビブラートには興味を強く示す生徒もいて、私の真似をしてくれたりします。その際に、とても上手にまねをしてくれて、運弓も安定しているようでしたら、その際に導入してしまう場合もあります。生徒たちにはいろいろな可能性があって、私のはかりだけで決め付けてしまってはいけない場合もあるからです。
ヴァイオリンにおける ビブラートいろいろ
ビブラートにはとても個性があらわれるもので、ビブラートを聞いて誰が演奏しているかがわかる、ともいわれるほどです。
ビブラートに個性があらわれる、それは、もちろん音楽的なアプローチの違いにもありますが、簡単に言えば、ひとりとして同じ手は存在しないから ということもひとつの理由です。
指の関節の柔軟性、指の先から第一関節までの長さ、指が弦にあたる角度、親指のかかわり方 など 本当にひとそれぞれです。そして、ビブラートの速さにも個性があり、もちろん楽曲により、ビブラートの質を選ぶべきだとしても、もともと速めにかける人、ゆったりめにかける人、いろいろです。
Photo by Joel Wyncott on Unsplash. Thank you!
腕からかけるビブラート、手首からのビブラート、指のビブラート とよく分類されますが、どのビブラートにもそれぞれの要素が関わっているので、結局のところは、上記すべてのビブラートのコンビネーションがよいビブラートともいえるでしょう。音楽のキャラクターや文脈にあったビブラートを「選べる」ようになるのがよいですね。
まずはひとつ習得したい!
とは言っても、まずは ビブラートをかけられるようになりたい!ですよね。ヴィブラートをはじめて学ぶ方々にとっては、たくさんの種類のエクササイズを目の前にすると混乱がおきてしまったり、ヴィブラートをまずひとつ習得するのに 必要以上の時間がかかってしまったりします。ですので、まずは 自分にとってやりやすい方法で、ひとつ、ヴィブラートを習得することを目指します。
一般的には まずは 腕からのビブラート、手首からのビブラート のどちらかになるでしょう。
私は子供の頃に腕からのビブラートを学び、その後、手首からのビブラートを練習して、今は 腕から と 手首から の両方をそのときによって使い分けています。指のヴィブラートを練習したこともありますが、私には、第一関節を速く動かす能力がないし、それを育てていくにはとてつもない労力と時間がかかると感じ(笑)、新たに指のヴィブラートを習得するよりも、自分がすでに習得しているものをもっと洗練されたものにし、どんな局面でもうまくコントロールされたかたちで使えるようになりたいと思いました。
理想の ヴァイオリンにおける ビブラートとは?
私は歌手のビブラートを参考にしたりします。うたでは 楽器と違い、人間の身体が楽器となるため、より”自然”なビブラートが生まれているような気がするからです。
ヴァイオリニストのビブラートは前出のとおり、極端に速いものもあますね。それが自然だと感じる演奏家も、聴き手もたくさんおられます。ただ、これは私の個人的な感覚ですが、あまり速いビブラートは 私自身の「耳」にとってはあまり自然なものではなかったりもします。
私が学生時代の仲間にヴァイオリンを専攻しながらも、合唱にも加わっている男子学生がいたのですが、彼のうたを聞くと、彼のうたのビブラートとヴァイオリンでのビブラートが同じだったことにとても驚きました!自分にとって自然なビブラートは、きっとどの楽器を使ってもでてくるものなのだと感じたことも今もよく覚えています。
また、ヴァイオリンはピアノと演奏することがとても多い楽器です。ピアノには豊かなペダルという機能はありますが、ピアノにはビブラートがありません。私はピアノとのデュオとして活動していた期間も長くあります。その際に考えていたことは、これはもちろん自分の師の教えでもあるのですが、デュオというのはピアノがヴァイオリンに対しての伴奏という位置づけではなく、ヴァイオリンと対等の役割をもつパートナーとして ヴァイオリンとピアノが一体になる、あたかもひとつの楽器となるかのようなアプローチをとる ということです。ピアニストのなかには、ヴァイオリンのヴィブラートがすぎる(=too much)と それを嫌がる方々もあり、ソナタの演奏の際のビブラート ということについても一歩踏み込んで考えさせられた時期もありました。
といっても、ピアノにはピアノの、ヴァイオリンにはヴァイオリンの楽器の特性があるので、今はそこまで深くは考えていませんが。(笑)
とにかく、ビブラートも速くたくさんかければいい、というものではなく、楽曲が弾き手に求めていると考えられるものを選んでかけられるようになるべきで、ビブラートそのものに焦点があたるようなビブラートであってはならない ということです。ビブラートはあくまでもスパイスであり、デコレーション(装飾)である、という考えが私の根本のところにはあります。
とにかく、まずはひとつビブラートを習得したい!ですよね。今後、少しずつ、ビブラートに関してのエクササイズをいろいろと少~しずつアップしていきたいと考えています。お楽しみに。
過去にひとつ簡単なエクササイズをひとつあげていました。また、ビブラート関連の記事もありましたので、よろしかったら読んでみてください。
「ヴァイオリンにおけるヴィブラート:エクササイズ」https://www.dearviolinstudents.com/ja/2019-10-19-165052/679/
「ヴァイオリンの高いポジションにおける小指のビブラート」https://www.dearviolinstudents.com/ja/2020-06-24-174251/530/
にほんブログ村
2 thoughts on “ヴァイオリンにおける ビブラート”